わが友ホロゴン・わが夢タンバール

40.10ホロゴン外傳6「2008年10月食後の一本」10 犬の耳鼻がえものを探すのさ


いしいしんじという小説家ご存じでしょうか
「麦ふみクーツェ」(新潮文庫)という、どこかファンタジックで、
どこか人を食った、奇想天外、分類不能の小説を以前読んで、大いに楽しみました。
ノーベル賞作家のガルシア・マルケスが作り出した、
リアリティとファンタジーの境界あたりをうろうろするような、
独特の小説世界にちょっと似ています。
今、そのいしいしんじさんの小説「ポーの話」を楽しんでいます。
その中で、思わず手で膝をぽんと打ってしまった部分がありました。
葦の原の中に紛れてしまった川シギを見事に銃で仕留める老人に、
主人公のポー少年が、どうしてあんなに上手く撃てるのか、尋ねるのです。
老人答えて、「犬の耳鼻がえものを探すのさ」
「わしはなにもしねえ。犬が鼻をきかせ、耳をすませる邪魔にならんよう、せいぜいおとなしく進んでゆくだけだ。こいつがたちどまれば、わしもとまる。どこかをじっと見つめだしたら、わしは黙って鉄砲をかまえる。そのうち、犬の目に見えてるものが、わしにも見えてるような気がしてくる。さっ、とな。別の目が開くんだよ」
「いってみりゃ、それは犬の目だ。おいぼれたわしの目とはちがう。犬をとおしてみる目なんだ」
「みつけるのも狙うのも、とってくるのも、なにしろこの犬だ」
これ、私たちがカメラを手に街を歩くときに起こることではありませんか?
今、レンズはなにか?
それだけで、見るものが違ってきます。
たとえば、15ミリを手にしていると、15ミリの画角と距離で、撮りたいものを選択します。
50ミリだと、50ミリの画角と距離でものを考えます。
(もっとも近頃のズームレンズをお使いの方はもっと複眼的思考かも知れませんね)
すくなくとも私はそんな見方をします。
つまり、カメラ、レンズが狩猟犬。
カメラを持たないときには見つからないものがどんどん見つかります。
でも、カメラは犬なのです。
ときには、暴走することもあります。
というより、私のようにノーファインダーで撮る場合は、たいてい暴走状態。
でも、かわいい犬なのです。
時折、見事獲物をゲットしてくれるのですから、だいじにしなくちゃ。
木村伊兵衛が、グルーミングの道具をちゃんと用意していて、
毎晩、使ったライカを丁寧にふき清めたというのは有名なお話です。
みなさん、そんな風に丁寧にカメラの世話をしていますか?
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さて、本日の写真、実は失敗作。
ライカⅡ型だったでしょうか?
幕の走りになにか不具合があったようです。
これが最初で最後の不具合。
でも、この颯爽たる女性、素敵ではありませんか。
あわや襲いかからんとした運命の暗転から、
知らずして、からくも逃れ得たヒロイン、
そんな物語を作れそうな写真、と勝手に独り決めして、アップ。
知らんぷりしておいてくださいね。
by Hologon158 | 2008-11-28 17:56 | ホロゴン外傳 | Comments(0)