59.08 ホロゴンドラマ5「和歌山の旅① 新宮」8 震えるような唇はたった2回の彫りで
新宮は、熊野の奥地から切り出された木材の集積地のようです。
冬とはいえ、さすがに南国、陽光に力があります。
順光を主に撮る私です、いきおい自分の影を前にすることに。
カルティエ=ブレッソンとはまた別の理由で、写真が大嫌いな私ですが、
自分の影は抵抗感なく撮ることができます。
少なくとも、私の影だけは生きていたことが確認できるわけです。
こんな木材を見るたびに想い出すのは、
写真家ジョン・ミリが撮ったフランスの彫刻家ルイ・ジューの木版画。
二羽の小鳥を胸に抱きかかえた修道僧が見下ろしている先には、
小さな少年が居て、修道僧をじっと見上げている、そんな構図。
彫り込んだ痕が白く残る、黒一色の版画。
つまり、暗い背景から二人が浮かび上がるのです。
その少年の震えるような唇はたった2回の彫り。
鼻とまぶたとほおを彫りだしたそのノミ痕に囲まれた深い闇が、
涙をたたえる眼に見えるのですから、不思議。
ジョン・ミリは、ルイの版画を大きく伸ばして見せたそうです。
すると、生涯無神論者だったルイは、
自分の彫りが、造型による詩となっていることを知って、こう述べたそうです、
「神が、わたしが自分の人生から造ったものを見るようにと
おっしゃっているんだね」
ノミによる彫りがそのまま詩となる、
これが芸術というものなのでしょうね。
by Hologon158
| 2009-03-31 14:23
| ホロゴンドラマ
|
Comments(0)