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231.02 ホロゴン外傳16「2011年5月14日伏見稲荷をおかしなレンズたちが」2 慟哭して送り出す?



トゥーキューディデースの「戦史」は、紀元前に書かれました。

当時、日本人はなにをしていたのでしょうか?
なにかしていました。
でも、文字がなかったために、彼らの人生も苦悩も、すべて永遠の謎。
ほとんどすべての文明で、すべてが闇。

そんな中で、ギリシアと中国は際だっています。
当時生きていた人間たちの事績だけではなく、
内面まで分かる記録を残してくれているのですから。
古代ギリシアでは、ホメーロスの2つの叙事詩、アテーナイの悲劇集、
トゥーキューディデースの「戦史」は、際だっています。

「戦史」は、岩波文庫の翻訳がまだ手に入ります。
筑摩書房の古典文学大系の方は避けましょう。
凡庸な訳で、ちっとも心が躍りません。
岩波は翻訳中の白眉。

とくにその三巻、シケーリアの主要ポリス、
シュラクーサイ攻防の顛末はまるでドキュメンタリーを読むようです。

ギリシア本土で、宿敵スパルタとの戦いを圧倒的有利に持ち込んだアテーナイは、
スパルタの背後の支援者シュラクーサイを倒すことで、
勝負を決しようと決意し、ほとんど全兵力を挙げてはるばる遠征します。
無謀そのものの暴挙は失敗に終わります。
シケーリアの中心シュラクーサイを包囲して、
一発逆転を狙ったアテーナイ軍は逆に包囲されてしまいます。
最後の頼みの綱として集結した艦隊も、
さらに優勢なシュラクーサイ艦隊のために湾岸に封鎖されてしまいます。

その包囲網を突破するために、アテーナイ艦隊は勝算のない戦いに出撃します。
アテーナイの総指揮官ニーキアースは、涙ながらに激励の演説をし、
死に向かって漕ぎ出した艦隊を追って海に入り、
絶叫し、慟哭して送り出すのです。

万策尽きた人間の絶望が2千数百年の時を超えて、
ひしひしと胸に響いてきます。
昔も今も、人間は....、そう考えて、ふと思いついたのです。

菅首相や東電の社長たちの心理も、
ニーキアースのそれに酷似しているんじゃないかな?

ニーキアースは、行く先々でかくかくたる武勲に輝き、
この人以上に幸運な人はいないとまで言われた人でした。
明敏な人ですから、シケーリア遠征の無謀を見抜き、激しく反対したのに、
皮肉な運命の転変のおかげで、指揮官に祭り上げられ、
最後は縦穴に放り込まれて、兵士たちとともに悲惨な死を遂げます。
敵地シケーリアでは、圧倒的に優勢な現地軍に追い回され、
やることなすことすべて失敗に終わったのです。

3月以来、原発は、未だに中に入ることも、必要な冷却装置設置もできず、
原子炉の破損状況も確認できず、
漏れだした膨大な水の処理もできないまま、
事態は一進一退を繰り返し、
目標の冷温安定にたどり着く見込みはまったく立っていません。
ただただ水をぶち込むだけ。

おそらく現場で作業に当たる人たちは、日々放射能を浴びて、
次々と交代を余儀なくされているのではないでしょうか?
アテーナイ艦隊の兵士たちと同じ、文字通り死地に赴く気分に違いありません。

そして、作業を割り当て、指示する、東電社長以下の上司たちは、
ニーキアースさながらの境地にいるに違いありません。

シケーリアでのアテーナイ軍には出口がありませんでした。
現代の原発に出口はあるのでしょうか?


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[後書き]
もちろんズマロン35mmF3.5の写りの方が立派ですね。
隠れたカリスマレンズ、それがズマロン。
開放から絞り込みまで、どの絞りでも最高の描写を楽しめます。
でも、キノプラズマートの方がむしろナチュラル、
そんな風に感じられませんか?
by Hologon158 | 2011-05-23 18:51 | ホロゴン外傳 | Comments(0)