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231.16 ホロゴン外傳16「2011年5月14日伏見稲荷をおかしなレンズたちが」16 返すパンチ?



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アンドレ・ブルトン著「魔術的芸術」(河出書房新社)を読み始めました。
フランスのシュルレアリストによる、
「20世紀最大の、幻の書物」なんだそうです。

今、見続けています。
要するに、読むのはやめました。
なぜか?
読めないからです。
読んでも、なんのことか、さっぱり分からないからです。


工業化された田園に向かって、それとも、原子の崩壊に向かって出発しようとしている最終列車のバラストにいまも惹かれている一部の人々の努力にもかかわらず、「近代の」神話は芸術においてーーー無意識をみちびく幻覚のとくに集団的な発言においてもーーーあまりにも貧しい現状をさらしているため、どの神話も自然の「総目録」と密接に触れあい続けることによってしか、私たちを少しでもときめかせるような光を実現することも放射することもできない、ということはじゅうぶんに信じられる。


あなた、この文章の意味が分かりますか?
私は、何度読み返しても、なんのイメージも浮かんでこないのです。
私に、シュルレアリスムの知識が完全に欠けているために、
1つ1つの言葉が含んでいる意味を読み取ることができないだけ、なのでしょうか?

でも、翻訳者に尋ねてみたいですね。
あなた、この文章、宙で繰り返せますか?
ほんとに、原文の意味を分かって訳したのですか?
どちらも疑わしいですね。

弟から聞いた話です。
大学教授が翻訳しているシーンを目撃したそうです。
煙草を口に、速射砲のようにワープロを叩いていたそうです。
意味を考えながら、英語の概念を日本語の概念に移しかえる、
そんな作業をするのであれば、そんな速射はできないはず。
それとも、天才なのでしょうか?

まだ、学生の頃、筑摩書房の古典文学大系を片端から読みました。
ヴェルギリウスの「アエネイド」、何頁読んだでしょうか?
恐れ入りました。
全文、七五調なのです。
それも、例外が一切なし。
すべての行が七五、七五、七五と杓子定規。
この叙事詩特有の語調を日本語の七五調に移植する大胆な試み。
そう言いたいところですが、
まるでヒトラーのドイツ軍の行進を見るみたいで、
味も素っ気もありません。

ある行で、のけぞってしまいました。
「返すパンチのすさまじさ」

訳者の教授先生が指折り数えて、
「うん、これは気の効いた行になった」とほくそ笑む、
そんなシーンが頭に浮かび、
一行も読み進めることができなくなりました。
あほらし!

私は、出版社の担当社員がこんな翻訳に頭を抱えなかったはずはない、
そう確信しています。
でも、このようなえらい権威は、一字一句の修正も拒むそうです。
アエネイドは、豊かな詩想と名文で知られた古典。
それが、こんなカスカス、ギシギシの骨皮にされてしまって!

平家物語は七五調の古典として有名ですが、
ずっと完全七五調ではありませんし、
第1、この表現はこれ以上ないほどに麗しく、豊かです。

たいていの名著は、1人だけが翻訳して、
青年たちがそれを読むことで、その思想が日本文化の合流しました。
でも、その翻訳が無茶苦茶だとしたら?
迷訳は、文化的資産となるべき書物を日本人から隠してしまいます。
怖ろしいですね。
犯罪と言いたいほどですね。

では、なぜ、「魔術的芸術」を見続けているのか?

挿入された絵が、目も覚めるほどに珍しく、かつ美しいからです。
人類はこれほどまでに豊かなイメージを絵にし続けてきた、
このことに感動させられてしまうのです。

66頁、ダ・ヴィンチの素描「鏡をのぞきこむ魔女」
さっと走る数本の線が、乙女を浮かび上がらせます。
もう匂うように麗しく、なまめかしく美しい。
この本でブルトンが何を言いたいのか、
文章を読んでもさっぱり分かりませんが、
この絵一枚見ただけで、分かります。

まさに魔術です。
by Hologon158 | 2011-05-26 10:44 | ホロゴン外傳 | Comments(0)