315.09ホロゴン外傳38「2012年3月11日友あり、東より来たる(6)ヘラー編」9 待つこと
東大寺二月堂から東大寺を見下ろします。
その上の空。
ヘラー35㎜f3.5って、美しいグラデーション。
やっぱり名レンズですね。
このとき、二月堂に群がる群衆は知るよしもなかった、
これがこの日最後に見る太陽であることを.....
この後、ぐんぐんと暗雲が垂れ込め、
どんよりとした薄明の大地には、
じとじとと暗く冷たい雨が降りつづいたのです。
この写真は、二月堂の石段をのぼりつめたところから。
その後、二月堂の正面の舞台に立ったとき、
天空が玄妙に美しく輝く瞬間がたった1回あったのです。
そのとき、私の前には、手摺りに群がって遠望する群衆。
どくのを待って、手摺りに寄って撮ろうと考えたのが間違い。
次の瞬間には、この空は消えてしまいました。
いわゆる決定的瞬間を逃してしまったようです。
風景写真だって、一瞬の勝負のようですね。
大和路の大写真家、入江泰吉の話が有名ですね。
厚く茂るススキの向こうに、法起寺の塔。
寒風吹きすさぶ中、長い間、先生は助手と一緒に待ったそうです。
ある瞬間、そのススキの大群が風にそよいで、割れ、
塔が見えました。
「それっ」と撮ったのが名作となりました。
寒風に激しくそよぐすすき群の間に塔。
激動の中、シンと静止する塔の姿は、まさに悟りの境地。
カルティエ=ブレッソンを特集したドキュメンタリーフィルムで、
通りかかりのフランス女性にインタビュー。
「あなたは、写真家カルティエ=ブレッソンを知っていますか?」
「知っています」
「どんな人だと思いますか?」
「待つことを知っている人です」
あなた、こんな当意即妙で的をずばり射た対話ができますか?
私には絶対にできません。
この女性もまた、ある種の達人なのです。
(それとも、制作者の演出?
いやいや、そんな風に意地悪く考えたくないですね。
なぜって、そんなことができる達人がちゃんといるから)
誰かが、私に路上インタビュー。
「写真を撮っておいでですが.....?」
「ええ、まあ.....」
「いかがですか?
絶妙の瞬間を待つことができますか?」
「待てません」
「ほー、どうして?」
「だって、いつ来るか、わからない」
「それじゃ、どうするんですか?」
「ただ撮って、そのままサヨナラ」
ね、だから言ったでしょ?
この人は写真を撮る人じゃない!
これじゃ、ろくな写真が撮れない!
by Hologon158
| 2012-04-09 11:42
| ホロゴン外傳
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