わが友ホロゴン・わが夢タンバール

440.07 ホロゴンデイ103「2006年7月8日 6年前、ぼくはホロゴンで北山界隈を撮っていた」7 楯を棄てる



ギリシア古典詩人アルキロコスの楽しい詩を読みました。
彼は兵士にして詩人という存在だったようです。


    わたしの楯は今あるサイオイ人の誉れとなった。
    あのすぐれた武器を、わたしはやむなく茂みのそばに棄てた。
    しかし、わたしは命を拾った。
    古い楯などかまうものか!
    くれてやるわ!
    もう一つ買うまでだ、同じくらい上等なやつを

古典ギリシアの重装歩兵にとって、楯は重要な武器でした。

    ずしりと重い楯を左手に掛けて、
    半身に構えた全身を楯で覆うようにして戦います。
    基本的には、そんな楯をしっかりと隙間なく並べて、
    ファランクスを構成したのです。
    敵の石、矢、槍による攻撃を防ぎ、
    接近すると、楯で敵をなぎ倒し、圧倒し、隙を見て槍で仕留める。
    楯がないと、裸同然となってしまうのです。

ですから、「イーリアス」では、楯もその他の武器も神聖なもので、
死を賭して護るべきものでした。

    ギリシア側の英雄の一人がトロイ方の大貴族と戦場で出会い、
    父祖の代からの親交を結んできた間柄だと分かります。
    喜んだ英雄は、提案します。
        「あなたとは戦えない。
         この出会いの記念に互いに武器と鎧を交換しましょう」
    トロイ人は大金持ちで、持ち物は黄金の鎧、黄金飾りの楯と豪奢そのもの。
    一方、ギリシアの英雄は王様の一人ですが、かなり貧しいので、
    持ち物は貧相そのもの。
    でも、二人は喜んで交換して、和やかに別れるのです。

    確かに貧相な持ち物だけど、神々が愛する英雄が愛用してきた、
    むしろ名誉に満ちた持ち物だったのです。

ですから、英雄が先頭で倒れると、さあ大変です。

    勝利者側はその鎧や持ち物を剥ぎ取ろうと群がり、
    敗者側はそうはさせるものかと必死で遺骸を護って戦ったのです。

それから150年か200年後の兵士であるアルキロコスは、
まったく別の調べを奏でたことになります。

そのおかげでポリスを追放されたという説もありますが、
このことで、アルキロコスが詩人としての名誉を失墜した形跡はありません。

    負け戦で逃げる時に戦って命を落としても、無益。
    それよりもなんとか生き延びて、次の戦いで名誉を挽回する。
    これが新しい生き方だったのかも知れません。
    時代そのものがより合理性のある行動を認めるようになったというわけです。

驚くべきことがあります。

    イーリアスの攻囲戦やアルキロコスが楯を棄てて逃げ去った頃、
    日本はまだ書かれた歴史を持つ千年も前のことだった!

イーリアスやオデュッセイアは朗誦によって伝えられたと言われていますが、
この二つの叙事詩は数知れぬ朗誦文学が文字化された後に、
誰か偉大な人物が一つのまとまりに完成したと言われています。

話し言葉だけでは、思想、人間性を磨くのはとても難しいことです。
人間行動のさまざまな徳性や考え方は、言葉が文字となり、
無形のものを有形の文字に対応させる、いわゆる記号化の作業が進んで、
はじめて人間の意識できるものとなります。
言葉というものを絶えず意識して深化させることで、
人間の行動も深化し、さまざまな徳性が発展したのです。

その意味で、ギリシア人と中国人の文明の文字文化の高さと、
それによる思想の成熟ぶりには、目を見張るものがあります。





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by Hologon158 | 2013-06-09 17:59 | ホロゴンデイ | Comments(0)