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633.08 ホロゴンデイ158「2016年2月16日高畑町をマクロホロゴンが一掃」8 司馬遷



私が中国の史書、とくに司馬遷の「史記」を好む理由は、
その臨場感にあります。
その最適のサンプルは、
漢の劉邦の伝記である「高祖本紀」と刺客列伝の荊軻伝。

司馬遷は曲がりなりにも漢王朝に正式に任命された史家でした。
中国は世界中に稀な歴史書を尊重する文明でした。
孔子の属した春秋戦国時代にすでにその伝統は確立されていました。
史家の使命は命をかけてでも正確な歴史を書きとどめることでした。
リアルタイムに正史に書き記したのです。

斉という国の王を重臣崔杼が殺害したことがあります。
そうせざるを得ない理由がなかったわけではないのですが、
史家はただちに記録しました、
「崔杼、君を弑す」
崔杼は、正しいことをしたのだから、そう書き改めよ、
と命じました。
史家は拒否しました。
崔杼はこの史家を殺しました。
すると、当時は史家は家門の仕事だったので、
その子がただちに地位を継承して、
記録しました、
「崔杼、君を弑す」
崔杼はこの史家も殺しました。
その頃、国外に居た次順位の後継者が車を走らせて、
国境を越えていました。
この後継者もただちに記録しました、
「崔杼、君を弑す」
さすがの崔杼もあきらめたということです。

それほどに正確性を重んじたのです。
支配者が好きなように史書をでっち上げた日本とは、
まったく異質の伝統。
真実の記録と宣伝の道具の違い。

その斉の史家の伝統を司馬遷は受け継いでいました。
高祖は、いわば現代の毛沢東のような存在です。
漢朝の人間には神のような存在だったでしょう。
でも、高祖本紀に描かれる劉邦は違いました。
若い頃から皇帝に成り上がってから死ぬまで、
時には、無頼漢一歩手前の野放図で野卑な親分そのままの姿。
でも、時には、劇的に変身して、思慮深く、度量があり、
人を見る眼があり、側近たちの意見もよく採り入れ、
真の王者らしい風格もないわけではない大人物の姿。
とても興味深い乱世の英雄そのままの姿です。

でも、その筆致からどうやら推測明らかなことは、
司馬遷が自分の君主武帝の曾祖父である劉邦より、
項羽や韓信のような、劉邦のライバルとなり、
滅びて行った英雄たちにより一層の敬意と哀惜の情を感じていたこと。
高祖の仇敵である項羽の伝記を高祖と同列の本紀に置き、
しかも、項羽の伝記を高祖本紀よりも前に置いたのですから、
客観性を重んじたのだと言うだけでは済まされない扱い。
史家としての正確性を保ちつつも、
人間としての情、敬意も行間に織り込むことができたのですから、
肝の据わった大した文筆家です。

そんな司馬遷が紀元前2世紀の人だったことを考えますと、
中国が日本よりもどんなに進んでいたか、驚くほかはありません。
日本の歴史学の泰斗、津田左右吉先生は、
日本書紀、古事記の日本を代表する史書は、
人間の感情の襞までも活写して、
中国の史書をはるかに上回る最高級の史書である、
というような趣旨の言葉を書いていますが、
これは、まるで依怙贔屓の引き倒しの、驚きの文章。

そのような人間的な情感を見せるのはほとんど女性たちだけ。
項羽や劉邦や韓信のような、
日本書紀よりも何百年も前の英雄たちの喜怒哀楽は、
古今東西の史書のどれにも劣らず、
さまざまな人間的情景の描写の中に見事に活写されているのに、
日本書紀には、日本武尊をのぞけば、ほとんどそれがありません。

トゥーキューディデースやヘロドトスにも、
すばらしい人間描写が数知れず見られます。
上記の史書はどれも人間の描写の具体性、現実性において、
その後のすべての史書を凌駕していると言っても、
言い過ぎではありません。
人物たちが生き生きとよみがえって来ることに驚愕させられます。
津田先生、ちゃんと読んだのでしょうか?




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by hologon158 | 2016-03-02 23:27 | ホロゴンデイ | Comments(0)