わが友ホロゴン・わが夢タンバール

665.03 ホロゴン外傅181「2016年9月21日シネユニライトが奈良町をほっと照らし」3 ミッシャ・マイスキー


16年11月18日金曜日、
チェリストのミッシャ・マイスキーのコンサートでした。
大阪フェスティバルホール。
素敵な演奏会でした。

プログラムは以下のとおり。
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
サン=サーンス:オペラ「サムソンとデリラ」より、アリア「あなたの声に心は開く」
ドビュッシー:ミンストレル(前奏曲集第1集より12番/マイスキー編)
ピアソラ:グラン・タンゴ
フォーレ:エレジー op.24
フランク:ソナタ イ長調(原曲=ヴァイオリンソナタ)

お気づきでしょうか?
チェロのオリジナル曲より、
チェロへの移植が多いですね。
オリジナル曲は堂々たる演奏でした。
フランクのヴァイオリンソナタは、チェロオリジナルではありませんが、
とにかく天下の名曲です。
ヴァイオリニストたちのお気に入り。
文字通り幾度も幾度も聞いてきました。
私が古い人間なのでしょう。
すごい曲だとはいつも驚嘆しますが、
いい曲だなあとため息をつく気分にはなったことがありません。
でも、チェロに移植すると、
かなり古典的な香りがついて、堂々たる名曲に仕上がっていました。
娘さんがピアノ伴奏をつとめましたが、
前半はなんだかお父さんのチェロとちぐはぐ。
でも、第2部のフォーレの「エレジー」以降は調子を上げ、
お父さんとぴたりと調和していました。

演奏曲の一つ、サン=サーンス「サムソンとダリラ」のアリア、
"Mon coeur s'ouvre a ta voix "は、
なかなか雰囲気を出した名演奏、と満足していました。
演奏が一段落して、数人が拍手しました。
ところが、これにはヴァリエーションの後半がついていたのです。
前半の本来の歌とはなんの関係もない狂騒的な超絶技巧の大開帳。
妖艶なる美女デリラによる英雄サムソンに対する誘惑が、
突然ロックに変わった位の違和感。
妻が会場の張り紙で知ったそうです。
このラストは彼自身の作曲にかかるものなのでした。
彼のチェロの絶妙なテクニックをいかんなく発揮するように作られています。
でも、デリラもサン=サーンスもついにそのどんな片隅にも姿を見せず。
19世紀のロマン派の音楽に即興性の高い現代音楽が無理に付け加えられて、
まるで古代の肌も露な美女が派手な配色のサングラスをかけている、
そんな雰囲気。
これじゃ、サムソンは怖気を振るって後ずさりしちゃいそうです。
音楽の鉄則に従えば、A-B-A'という風に、
デリラのテーマが最後に回帰して、豊かな歌で終わらなきゃ!
でも、それじゃ、マイスキーのチェロよりも、サン=サーンスが目立ちます。
マイスキーの意図はあくまでもチェロを正面に、ということだったようです。

そして、アルゼンチンタンゴの名匠ピアソラが、
大チェリスト、ロストロポーヴィチに捧げたチェロオリジナル曲。
ロストロポーヴィチはついに弾かなかったそうです。
当たり前ですよ、そう言いたい。
メッタヤタラにチェロがはしゃぎ回る、
タンゴとクラシックの中途半端なミックス、
そうとしか言いようのない、喧噪の音楽なのですから。

ギドン・クレーメル、マルタ・アルゲリチ、ヨーヨーマ等々、
クラシックの大演奏家たちのピアソラ贔屓には恐れ入ります。
でも、タンゴはバンドネオンで奏でてこそタンゴ。
偉大な演奏家たちがピアソラを演奏すると、どこか居心地が悪く、
偉大な演奏にはなりませんし、偉大なタンゴには絶対になりません。
みなさん、お好きな方が多いようです。
私にはまるで無意味な雑音。
今回の曲もまさに壮大な雑音、と言ったら、
マイスキーさんに厳しすぎるかもしれません。
でも、彼はこのブログを読まないので、平気です。
チェロのオリジナルの偉大な名曲が一杯あるじゃないですか?
ご自分の弾きたい曲よりも、音楽愛好家たちが聴きたい音楽を、
そう希望するのは、三流の素人リスナーの証拠なのでしょうか?

でも、マイスキーがかなりのチェリストであることは疑いがありません。
彼は、ロストロポーヴィチとピアティゴルスキーに演奏を見てもらったそうです。
そして、そのとき、この偉大なチェロの先達たちが独特の音を持っていることに、
大きな感銘を受け、それ以来、自分の音を探してきたのだそうです。
本日の演奏でもっとも印象的だったサウンドは、最後のアンコール曲のラスト。
かすかなかすかなピアニッシモで終わったのですが、
3000人収容の大コンサートホール一杯にその音が染み渡って行くようでした。
優れた演奏家は誰もが凄いフォルテッシモを持っています。
でも、消え入るようにかすかなのに、魂を揺るがすようなインパクトのある、
ピアニッシモ中のピアニッシモを持っている演奏家は、
どの楽器でもあまり居ないかも知れません。
私がその神業を体験したのは、カール・ライスター一人だけ。

妻は、私よりも感受性が高いので、猛烈に感動して、
真っ先にスタンディング・オベーションに参加していました。
私は、自分の気持ちに従わせていただきました。
5曲もアンコールに応じてくれて、サービス一杯、豪勢そのものの演奏、
まさにスゴい2時間でした。
妻は、長い列に並んで、購入したバッハ無伴奏のCDに署名してもらいました。
私は並びませんでした。
気持ちが動かないことはしないので。
折角なんだから、偉大なチェリストとまじかに対面し、
言葉をかわし、握手したらよかったのに?
私には、そんな趣味はありません。

でも、前記の至高のピアニッシモにもかかわらず、
私の心に永遠に残るコンサートにはなりませんでした。
なぜなんだろう?
帰りの特急の中で思案しました。
口幅ったいようですが、その理由を思い当たったように思います。
彼の演奏では、なぜか常に、演奏技術が音楽のエスプリに先行している、
そんな感じがしてならないのです。
今回の演奏曲目からしてそうでした。
マイスキーを忘れて、音楽が浮かび上がる、そんな曲が少な過ぎました。
音楽家の魂、ミューズの女神のささやきに接したかったのに、
偉大な演奏家の神技を見せてもらっただけ。
この音楽、この曲を心から愛しているから、
こうして皆さんに聴かせたいんだ、
そんな心映えを感じることができなかった、
そんな感じだからです。
ちょっと残念。






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by hologon158 | 2016-11-19 23:57 | ホロゴン外傳 | Comments(0)