わが友ホロゴン・わが夢タンバール

679.03 ホロゴンデイ194「2016年12月24日ホロゴンが浪速の雑踏に」3 落としの名人


昔、落としの名人が居たそうです。
物を落とす名人ではありません。
それは私のことで、生涯、いっぱい落とし物をしてきました。
そうではなくて、重大事件のの容疑を徹底的に否定する被疑者から、
完全な自白を引き出す名人。
その具体的な内容は完全に忘れました。
私は大切なことを忘れてしまう名人でもあるので。

でも、一番大切な秘訣は記憶しています。
被疑者が自分からしゃべりだすまで、
じっと沈黙したまま、待ちに待つ、その待ち方。
名刑事、何一つしゃべりませんでした。
来る日も来る日もただの一言もしゃべらない。
机を挟んで対座したまま、沈黙。

あなた、耐えられますか?
取調官としての立場でも、被疑者の立場でも同じ。
あなたは、耐えられないでしょう。
私ももちろん耐えられません。

取調官は、被疑者がこの極悪非道の犯罪を冷酷に計画し、
冷酷に実行し、冷酷に隠蔽しようとしていると確信しています。
でも、被疑者はにやにやと笑いながら、
「どうだ、なんにも証拠がないんだから、手も足も出せんだろうが」
と言わんばかりのしれっとした表情で、ちらりとも動揺の気配を見せない。
身柄を拘束して取り調べる限界もどんどんと迫ってきている。
でも、あなたはほんのかすかにでも、そんな焦りや動揺のそぶりは見せない。

こんな想像をしてみてください。
あなたの目の先に誰かが輪ゴムを押し当て、
それからニタニタ笑いながら、どこまでもどこまでも引っ張り延ばしていく。
いつどの瞬間にプツンと切れた輪ゴムがあなたの目を直撃するか、
まったく予断を許さない。
それでもニコニコとほほえみを浮かべながら、
目を開き続けることができませすか?
落としの名人の刑事さんはそれができたのですね。
結局被疑者の方が先に我慢ができなくなって、
堰を切ったように自白しはじめるのが常だったそうです。

ただし、歴史は皮肉なものです。
やっていない人までも、同じように自白の奔流に乗ってしまったのです。
要するに、拘禁ノイローゼがその人を押し流してしまったのです。
人間は厳密に現実に生起した事実だけによって生きているのでありません。
夢、理想、虚構、勘違い、記憶違い、
これらも人生なのです。

問題は、落としの名人はいつしか真相把握ではなく、
必ず落とすことに目標を切り替えてしまい、
自分でも気づかないこと。
真実の犯人を見つけだすという捜査の本質がいつしか、
自分がねらった獲物は逃がさない、という自己目的にすり替わってしまい、
ご自分でもそれに気づかない。

その方がそんな風にして沢山のえん罪事件を生み出したか、
それは知りませんが、
えん罪事件の裏には常に捜査機関の思いこみがあります。
恐ろしいことに、
冤罪事件の大半はそのまま服役し、あるいは処刑されて、
冤罪であることは歴史の明るみに出ません。
世に知られた冤罪事件は、本人の執念、弁護士の意志力に、
真犯人発見等の偶然の運命的な幸運等の諸条件が幸せにそろわないと、
この世に知られることはなかったのです。

どんな場合でもそうですが、
過ぎたるは及ばざるが如し。
落としの名人もご自分の前に潜む恐ろしい落とし穴に
常に心を配ってほしいものです。
というわけで、「じっと沈黙したまま、待ちに待つ」姿勢も
ときにはリスクがある、というお話。
やっぱり、「落としの名人」は、
真実を究明するシャーロック・ホームズには何歩も譲るのです。

犯罪捜査にはなんの関わりのない私たち一般人にとって、
大切な教訓は明らかですね。
常に一つの方法、メソードに頼り切るのは、どんな場合でも、危険。
トインビーはこのような誤謬を見事に一言で表現しました。
「オールを漕ぐのをやめること」
生きている限り、オールを漕ぎ続けることにしましょう。




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by hologon158 | 2017-03-03 11:53 | ホロゴンデイ | Comments(0)