わが友ホロゴン・わが夢タンバール

33.13ホロゴン写真展「1998年1月冬のネパール」13 目にも止まらぬ巻き上げでフィニッシュした日本人


「煙草は吸った方がいいよ、間が持てるから」
これ母の薦め。
こんな母親も少ないでしょうね。
大学入学直後の私、この母の教えによろこんで従ったでしょうか?
とんでもない。
「心配ないよ、間が保てないようなことは、ぼくの場合、ないんだから」
何時間でもしゃべり続けるのですから、間もなにもあったものじゃない!
でも、それは表向きの理由。
当時から、煙草が身体に悪いことは十分に分かっていました。
身体に悪いことは決してしない、それが私の生涯一貫した方針。
煙草に着火し、指でホールドし、そっとふかす、
その仕草のすべてが実に見事に決まっている人がいます。
まことにかっこいい。
だから、やってみるか?
それもしませんね。
だって、その反対に、煙草を巡る仕草のすべてがダサイ人の方がすっと多いのですから。
私の生涯一貫したもう一つの方針は、
人からかっこいいなと思われるようなことは一切しない!
たとえば、「なるほど…」なんて、独りしずかにうなづいて、
沈思黙考してから、やおら口を開く、なんてことは、
しない。
というより、できない。
いきなり言葉が口をついて出てしまうたちなのですから。
友達も終始悪かったですね、
こっちが黙ったら、平気で話題を奪ってしまうようなのばかり。
おかげで、丁々発止、とうとう深みのある人間性は培われずじまいになりました。
こんな環境では、もったいぶったこととは完全に無縁となってしまった私。
そんな私ですが、ここ、バドガオンの町に来て、
まるで維新前の江戸のようなたたずまいの商店街で、
水煙管を吸う老人を見つけて、感心しました。
「やあ、あの吸い方って、煙草のかっこよさ抜きにして、
純粋に煙草を愉しむ究極の方法なんだな!」
もし私が煙草中毒になっていたら、
最後にはきっとこの吸い方を取り入れていたことでしょう。
思い出しました、
人生に一度だけ、かっこいいことをしたことを。
アイルランドの首都ダブリンで撮影していたときのことです。
ホロゴンウルトラワイドのフィルムが終わったのです。
雑踏の中、交換動作にとりかかろうとして、目の隅にふと気づきました。
アメリカ人写真家とおぼしき男が、
手に使い古したニコンを手にして立っていて、
この男の視線は、はっきりとホロゴンウルトラワイドに集中していることに。
このとき位、流れるような動作でかつ極めて短時間に、
フィルムをすぱっと交換し、裏蓋をパチンと取り付け、
2度の目にも止まらぬ巻き上げ動作でフィニッシュしたことはありませんね。
私は、昔ながらの愛国思想とはぜんぜん無縁のやからですが、
このときだけは、日本人として、
カメラの扱いにおいて、アメリカ人に馬鹿にされるようなことをしてはならぬ、
なんていきり立ったのですから、おかしなものです。
ガラに合わぬことはしないこと、それが一番ですね。
33.13ホロゴン写真展「1998年1月冬のネパール」13 目にも止まらぬ巻き上げでフィニッシュした日本人_c0168172_21255158.jpg

     [撮影メモ]
      たいていのカメラマンなら、
      このような老人を見つけると、
      左に回り、水煙管を前景にぼかして、
      煙管を吸う恍惚の表情をアップにして、
      望遠レンズでシャッと見事傑作をゲットしたことでしょう。
      あいにく15ミリ超広角の私です、
      いつものダサイやり方しかありません。
      通行人に混じって、路を進み、
      老人の横70センチほどに接近した瞬間、
      腰だめのホロゴンを脇に回して、チャッ。
      腰の据わらぬ撮り方ですが、
      老人の方がぐっと腰を据えてくれているので、
      なんとか写真になりました。
      腰の決まった被写体を撮れば、
      腰の決まらぬ撮り方でもちゃんと撮れる一例でした。
      ちなみに、5年後、バドガオンを再訪したとき、
      まだしっかりとお店を続けている老人の姿を見つけて、
      なんだか旧友に再会したようなうれしさを感じたものでした。
      それからまた五年後の今も水煙管たしなんでいるかな?
by Hologon158 | 2008-10-15 21:26 | ホロゴン写真展 | Comments(2)
Commented by andoodesign at 2008-10-15 21:35
これは前のブログで拝見した記憶があります。
改めて見てもやはり素晴らしいですね!
煙草を吸う男性の渋さはもちろん、M字型の構図と背景の「闇」が「予感」や「余韻」を感じさせてくれます。
Commented by Hologon158 at 2008-10-15 22:46
re)andoodesignさん
前にも、andoodesignさんにこの構図を褒めていただきました。
私は、実際の所、このご主人には目をけっして向けず、
店の奥の暗黒の方に注意を集中しているような表情で、
このシーンをいわばあてずっぽうで撮ったわけです。
ちょうどホロゴンの画角にあうような情景だったのですね。
本人は、そんな構図も、ご本人の表情もお構いなしに、ブラインドでいきなりシャッター。