わが友ホロゴン・わが夢タンバール

33.16ホロゴン写真展「1998年1月冬のネパール」16 黄金の時間にさしかかったのは曲がり角だった


アンリ・ラルティーグ、
この写真家をご存知でしょうか?
7歳のとき、父からカメラをプレゼントされて、
死ぬまで、その大半を無名のアマチュアとして撮り続けた人です。
私など、生涯の全部を無名の素人として撮り続けることになりますので、
この人はまさに生涯の模範。
その写真が幼少時から晩年までずっと魅力的なのです。
さまざまなフォーマットのカメラで撮り続けたようですが、
強烈に魅力的なのが、1:2.1という極端に長い長辺をもつカメラのもの。
いつも長辺の一方の画像が横流れしていますので、
ひょっとすると、レンズが回転するパノラマカメラなのかも知れません。
このカメラによる作品、全部空気感があって、雰囲気満点。
私も昔ワイドラックスというパノラマカメラを使ったことがあります。
レンズがくるりと140度回転します。
シルクロードに2週間のバスの旅に出かけるというので、
急遽手に入れ、三脚につけて試し撮りしてみました。
35ミリフィルムが9センチ幅にワイドになり、
見事なパノラマになっていました。
これはシルクロードの広大な砂漠を撮るのに強力な武器になると勇んで出かけました。
10本近く撮ったでしょうか?
現像から上がってきたポジを、胸をときめかせつつのぞき込んで、
唖然、呆然、茫然、憤然、そして凍り付いてしまいました。
そのすべてのネガの両側にソーセージがしっかり写っていたのです。
私の指!
なんにも考えずに、普通のホールディングをしていたのです。
まだホロゴンウルトラワイドを手に入れる前のことでした。
画角110度のホロゴンでも指が写るのです。
140度で写らない筈がない、バカ、バカ、バカ!
ただちにワイドラックスを売り飛ばしてしまったことは言うまでもありません。
でも、売り飛ばしたことに後悔はありません。
とてもシャープですが、とても硬い写りなのです。
ラルティーグの使用したレンズはおそらくブローニーなのでしょう。
大変にやわらかい。
ビビというとても可愛い奥さんを田舎の街道上で撮った作品があります。
パノラマを縦位置に撮っています。
底部から街道が画面ほぼ3分の2まで昇って行き、
その中央に、美しいビビがすっと立っています。
その頭部の少し上の方で、街道の白い路面が右にカーブして消えてゆきます。
ビビの背後にはたった一本の大樹がすっと聳えています。
つまり、下面から街道、ビビ、大樹と空だけでシンプルに構成されています。
もちろん大地と空とは黄金分割。
1923年、まさに古き良き時代だった!
この写真一枚が時代の雰囲気を力まず自然に映し出しているのです。
単なる記念写真、でも、ただならぬ芸術!
私は、いつもこの人の写真を見るたびに、心の中でつぶやいてしまいます。
この人は欲がなかったのだ!
天才だった!
でも、長い間、自分では気づいていなかった!
カルティエ=ブレッソンとラルティーグ、
写真の2人の天才はどちらもフランスの古きよき時代の裕福な家庭の生まれ。
この符合になにか意味があるような気がしてきます。
たとえば、豊かな人間関係に取り囲まれて育つことによって、
人と人との触れあい、コミュニケーションのニュアンスのすべてを感じ取れる、
そんなセンシティブな人間に育ったのかも?
そして、スナップを撮るとき、その豊かな感受性が活きているのかも?
くれぐれもご注意申し上げます。
天才の作品を観た後で、自分の写真を見るものではありませんよ。
その落差にめまいしてしまうでしょうから。

33.16ホロゴン写真展「1998年1月冬のネパール」16 黄金の時間にさしかかったのは曲がり角だった_c0168172_15235340.jpg

by Hologon158 | 2008-10-16 15:24 | ホロゴン写真展 | Comments(2)
Commented by yoshipass at 2008-10-16 18:57
>天才の作品を観た後で、自分の写真を見るものではありませんよ。
>その落差にめまいしてしまうでしょうから。
いや、いや、Hologon158さんのこの光、この写真に、ボクは目眩がします・・・すばらしいです。
Commented by Hologon158 at 2008-10-16 20:56
re)yoshiさん
いつもそう励ましていただいて、ありがとうございます。
バドガオンは、4階建て、5階建てのマンション風ビルがどっさりあります。
その隙間から入ってくる西日がまぶしいので、
こんなに輝くのです。
それがまぶしいだけですよ。
オーソドックスなスナップですね。
なつかしいけど、もうもう今では撮らないし、撮れない。
歴史は逆戻りできないですね。