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190.09 ホロゴンデイ57「2010年10月9日葛城古道はやまぬ雨に暗く沈み」9 蛍火の数萬飛交ふ


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岡谷繁実「名将言行録」8巻(岩波文庫・特別復刊)、
    戦国武将たちの逸話集で、読み甲斐があります。
    その毛利元就の段にちょっと面白い話を見つけました。

宿敵の陶晴賢の2万の大軍が襲来して、
    毛利元就、わずか3400の兵を率いて出陣し、
    まだ未明に、川を挟んで対陣したときのことです。

    川向こうに敵の伏兵が待っているとの情報で、
    この伏兵を逆に奇襲せんと、兵を遣わしました。
    でも、元就、ちょっと高みに上って、見晴るかしてみても、
    曇天で月もなく、まるで真っ暗でなにも見えず、
    大地は不気味に寂然と静まりかえったまま。
    突然、元就は、先鋒の部隊に使いを走らせて、引き返せと命じました。
    後で、家来たちが、その理由を尋ねたところ、
    元就はこう答えたのです、

    「元就我敵陣の方を見る所に、元より闇夜なれば咫尺(シシャク)も見えず、
    然るに川の面には蛍火の数萬飛交ふ処、
    俄に川下の蛍火散乱し、見る内に一つ残らず散り失せしかば、
    偖(サテ)は敵兵我を不意に討たんとて、
    川下の方を密(ヒソカ)に渡り来るよと心付し故、
    早々軍を収めしなり」

名将には、観察力、経験知に裏付けられた推理力、決断力も必要ですが、
    闇でも遠くを見はるかす視力もまた必要だったというわけです。

それにしても、そのイメージの美しいこと!
    血なまぐさい戦いのなかに、
    ちょっとした日本美がほの見える、
    そんな感じがして、
    朝からちょっと気分がいいですね。
by Hologon158 | 2010-11-25 10:53 | ホロゴンデイ | Comments(0)