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221.32 ホロゴンデイ66「2011年3月6日濹東綺譚の荷風を気取ってはみたけど」32 画家、東勝吉



作家村田喜代子さんの「偏愛ムラタ美術館」(平凡社)

この本もおもしろいですね。
さまざまな、どちらかと言えばマイナーなアートに心奪われます。
まさに美術偏愛の顛末記。

大分県湯布院町の画家、東勝吉さん、びっくりですね。

半生を木こりとして過ごした老人が特別養護老人ホームに入所します。
ちょっとしたきっかけから、
院長さんが勝吉さんに水彩絵の具を買い与えます。
そのとき、なんと、83歳。
それから、2007年3月に99歳で世を去るまでの16年間、
100点余の絵を描き、その絵は、
ホームの隣り「東勝吉常設館」に納められているそうです。

その絵がまことに楽しい。
いわゆるナイーブ・アートです。
完全な我流で、画家たちの絵も見たことがない!
「好きな絵描きは誰ですか?」と尋ねられると、
「絵を習っていないので、誰も知りません」
勝手に描き始め、勝手に描き続けた。
その絵は、稚拙なところ、不自然なところも残っていますが、
線も色も表現もみんなビンビン生きていて、見事に独創的です。
山野を自分の表現方法で描き出しています。
アンリ・ルソーにちょっと似ています。
老人が描いたとは思えない、エネルギーに満ちています。

83年間、絵にも、他のすべての芸術にも無縁で、
山の中で暮らしていた人が、
絵筆を手にすると、その絵筆からこんな新鮮な絵が飛び出す。
不思議ですね。

妻が昨日、親しい友人から頼まれて、
水彩画の写生につきあったそうです。
その友人は、やはり絵を描いたことのない人。
東大寺には、不思議な屋根のお堂、三月堂があります。
不空羂索観音、日光、月光菩薩、執金剛神など、
超一流の国宝が納められた、いわば日本文化の宝庫の一つ。

二人で、そのお堂を描き始めたのですが、
友人、ふと気がつくと、画用紙いっぱいの屋根。
壁も床も地面も描く場所がなくなっていました。
そこで、書き直したそうです。
これが普通ですね。
絵をある程度知っているので、ある種の規範が心にあって、
屋根だけだと、これは正しくないと感じてしまう。

ところが、勝吉さんは、絵を見たことがない。
だから、心のままに描くことができた、
そういうことではないでしょうか?

ナイーブアートの画家たちは、
ほとんど美術などに縁のない、地道な生活者たちです。
お手本なしに、描きたいという衝動のままに描いた、
だから、独創を伸ばすことができたのではないでしょうか?

妻の友人も、絵はこうでなきゃ、という常識を捨てて、
そのまま描き続けたら、よかったのではないでしょうか?
なかなかできないことかもしれませんね。


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by Hologon158 | 2011-04-06 21:57 | ホロゴンデイ | Comments(0)