わが友ホロゴン・わが夢タンバール

332.05 ホロゴンデイ85「2008年5月31日山辺の道をホロゴンが歩いた」5 林忠彦長崎実験



前にも書きましたが、
二科の写真家林忠彦が昔長崎を撮ったときのこと、
長崎の二科の会員たちが林さんと同じ装備を用意して随行したそうです。

林さんがプラナー85mmF1.4を出せば、即、85mmを出し、RTSに付け、
同じ絞りにして、林さんが撮った後、
同じ位置から同じ方向を向けて撮ったそうです。
もちろんフィルムも同じ。
たしかコダクローム25。

後日出版された、林忠彦の写真集を見て、のけぞったそうです。
まるで違う写真。
重厚で空気感、ときには幕末の雰囲気まで感じさせる作品たち。

どうしてこんなに違うのか?
その理由、あなた、わかりますか?
私には分かりません。

でも、無理にちょっと考えてみましょう。

二科の会員たち、先生と条件を全部一緒にしたように見えます。
おそらくみなさん、練達の写真家のはず。
それなら、撮れるものは一緒のはず。
これ、名古屋大のニュートリノの光速実験を思い起こさせます。
結果がちがったのですから、どこか条件が違うはずなのです。

違うとすれば、なにが違うか?
いろいろファクターを考えることができます。

1 コダクロームの質の違い
フィルムが違うと、天と地ほど違うようです。
林さんにとっては、印刷原稿となるフィルムの質は死活の問題。
上質かつ均質のフィルムをコンスタントに確保しておられたでしょう。

2 レンズが違う
ツァイスは林さんをコンタックス販売のいわばフラッグシップだった人です。
林さんの作品の質の高さが販売促進の決め手の1つだったのです。
使うレンズはすべてツァイスか、ヤシカから供給されていたはず。
だとすると、これらのレンズは特別に高品位だったという可能性は
かなり高いのではないでしょうか?

3 撮り方が違う。
とても優れた写真家は、廉価なコンパクトカメラで撮っても、
高級レンズで撮ったかのような仕上がりを見せるものです。
まして、林忠彦さんは戦後日本のトップクラスの写真家です。
お目にかかったことがありますが、
野武士のように精悍な表情の豪傑でした。
特製の巨大レザーバッグにカメラ2台、レンズ8本が入っていました。
30キロほどあるとのこと。
撮影旅行にはこのバッグを担いで一日中歩き回ったのです。
そんな人物がコンタックスを構えるのです。
レンズは微動だにしなかったのではないでしょうか?

マニュアルレンズ、マニュアルカメラで手持ちで撮ると、
現代のレンズとは大違いで、
完全合焦を100%とすると、たいていの場合、95%より下。
100%で撮るのは、よほどの写真家でないと難しい。
ですから、林さんの写真は、
二科の会員さんたちよりも数段上質だった可能性もあります。

4 フィルム現像の質が違う。
林さんが作品のために現像をコダックに依頼すると、
コダックは、このような写真集作家による宣伝効果を考慮して、
最高クラスの現像をしたという可能性は高いのではないでしょうか?

5 印刷原稿とするときの処理が作品づくりに大きく貢献している。
コンピューター製本ならなおさらですが、印刷製本の時代は、
印刷原稿としての写真の質を高めることは、
印刷会社の技術次第だったのではないでしょうか?
当然、林さんにも幾度も見せて、作品とするための注文を受けたことでしょう。

こんなことを考えてまいりますと、
どうやら林忠彦さんの写真集が違っているのは当然。
その写真を見て、
二科の会員さんたち、がっかりすることはなかったのでは?

そして、そもそも原則に立ち返って考えてみますと、
大写真家と同じ写真が撮れると期待することも、
やや自分を買いかぶりすぎている感じがあるのですが、
先生と同じ写真を撮って、
自分の作品にするつもりはなかったと思いますが、
そんなことをして、大写真家の写真を学ぼうとする姿勢も、
かなりナイーブすぎる感じがするのですが.....
芸を盗む、なんて考えない方がよさそうです。

自分の写真は自分で苦心惨憺して探し出す、
これしかないのでは?




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by Hologon158 | 2012-06-09 00:28 | ホロゴンデイ | Comments(0)