502.19 ホロゴンデイ115「2014年2月15日 ホロゴンαウルトラワイドは大阪梅田で華麗に」19 望遠効果
写真、カメラの経験のまったくない人が、
望遠レンズと同じように、
たとえば、畳み込みの効果を伴って、
風景を見ることができるでしょうか?
無理じゃないでしょうか?
なぜ、こんなことを書くかと言いますと、
今、ふと「齊白石画集」(龍華堂)をめくっていて、
まさに望遠レンズで撮ったかのような絵を1枚見つけてしまったのです。
「晴波揚帆」
ほぼ縦4に対して横1の短冊風の形の絵です。
その中間の高さに船体が船首、船尾がちょん切られた形で描かれ、
船体から一枚の純白の細長い帆が立ち上がり、
その上からマストの天辺が見えています。
その上にも、向こうに波が見えているので、
画家は海に面した小高い丘から見下ろしている感じ。
その船体の真下あたりから底部までの空間を、
柳の木の天辺の一部を成す、枝と葉の流線模様が占めています。
柳、帆舟、波は畳み込まれて、海が立ち上がっている感じ。
135㎜望遠レンズで撮ったかのような光景です。
普通、中国の山水画は、独特のパースペクティブで描かれています。
「三遠」と言います。
高遠、平遠、深遠。
高遠は、山の下から頂上を見上げる感じ。
平遠は、山の上から近くの山を見る感じ。
深遠は、山の手前の方から山の背後、たとえば、渓谷を見下ろす感じ。
西洋の遠近法とはまったく異なる3つの視点を1つの絵に組み込みます。
これが中国の山水画に独特の厚みと高さを与えました。
ところが、「晴波揚帆」は西洋風の遠近法の一点透視図法風なのです。
ウィキペディアで調べてみると、
生年は1864年1月1日、没年は1957年9月16日(95歳)です。
齊白石は西洋遠近法を知ることができたでしょうか?
日本の絵に遠近法が採り入れられたのは江戸時代、
18世紀後半から日本画に影響を与えていたとされています。
とすると、中国だって、ほぼ同時代に遠近法の影響を受けたはずです。
一方、ライカのエルマーやヘクトールの135mmF4.5は1931年以降の制作。
他のレンズ会社の35㎜用望遠レンズも同じ頃ではないでしょうか?
でも、ksmtさんや中将姫光学さんが蒐集しておられる、
ペッツバールの望遠レンズは19世紀後半からすでに出現しています。
齊白石だって、なんらかの望遠レンズ写真を見た可能性は否定できません。
私の画集には、山水画が20枚ほどしかありません。
彼本来の小品を中心に編集されている画集です。
「晴波揚帆」と似た遠近法の絵はもう1枚しか見つかりません。
他はすべて山水画伝統の三遠構図を使っています。
その2枚がいつ描かれたか、記載はありません。
それでも、上記の事情を総合すると、3つの考え方ができそうです。
①齊白石は望遠レンズで撮られた写真を見たことがある。
②西洋風の遠近法を学んで、一点透視図法的に構図した。
③齊白石は、伝統的な三遠主義から脱却しようと努力する内に、
自分で西洋風の遠近法に近い図法を編み出した。
私としては、もちろん①の可能性を第1にとりたいですね。
「晴波揚帆」は望遠レンズで撮った写真を見て描いたと言っても、
誰も不思議に思わないだろうと言いたくなるほど、
典型的な畳み込み効果が描き出されているのですから。
西洋風の遠近法を採り入れたとして、
齊白石が一点透視図法を使って、
望遠レンズの畳み込み効果まで作画できたでしょうか?
私には疑問ですね。
というわけで、中国水墨画の巨匠もまた写真の影響を受けていた、
その証拠をここに見つけた、私はそんな感じがしています。
by Hologon158
| 2014-02-25 17:40
| ホロゴンデイ
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