わが友ホロゴン・わが夢タンバール

589.14 ホロゴントラベル15「2015年3月23日大理の町をヘリアー片手に一人漫歩」14 男の中の男



まだ若い頃、20台の頃のことを思い出しました。
職場の同僚4人、
と言っても、大先輩の50歳、40歳、30台、そして私、
ほとんど一世代毎に違う4人の間で一つの問題を出したのです。
私が出した問題なのです。
東京駅の八重洲口側には、当時、たった1車線の車道があり、
なんとご丁寧に信号機まで設置されていました。

問題はこうです、
「この信号が赤。
それなのに、はるか彼方一直線の車道には車の影なし。
赤信号でも横断するか?」

あなたはどうしますか?
答えは分かれました。
2対2。
50歳と私は「渡る」、他の二人は渡らない。
法は人のためにあるので、人は法のためにあるのではない。
私はそう信じているからです。

大先輩の50歳はいわゆる「男の中の男」でした。
将来を嘱望されていた人物でしたが、
数年後、惜しくも癌で亡くなってしまいました。
後輩たちが集まって、追悼文集を出版しました。
私はさほどのおつきあいもなかった若輩ものなので、
文集に寄稿はしなかったのですが、
その文集の中に印象的な一節がありました。
娘さんが在りし日の父の姿を描いた一節。

高校時代に父親にこう尋ねたのだそうです、
「真善美って言うけど、どれが一番大切なの?」
知的な娘さんです。
書斎で仕事をしていた父親は、
振り返りもせず、即座にこう答えたそうです、
「美だよ」

いい男ですねえ!
私も同じ答えを出します。
子供の頃から、ずっと美に魅せられてきたのですから。

私の子供の頃はテレビなどなかったので、
母親の楽しみは映画館でした。
私は4人姉弟の3番目でしたが、
まだ小学校低学年の頃から常に一人同行しました。
夕食後の夜間上映なのですから、
私の母親、なにを考えていたのでしょうね?
おかげで、ヨーロッパ映画、アメリカ映画をかなり観ました。
小さい癖に、映画館を出るときはもう完全に主人公になりきっていました。

どうやら、私の美的感覚、道徳観、人間に対する強烈な関心は
映画で磨かれたようです。
人に言わせれば、映画によって偏向されたのかもしれませんが、
私としては、よい方向に偏向させてもらったと言いたい。

当時のアメリカ映画の主人公たちの生き方を一口でまとめると、
「義を見てせざるは勇無きなり」
「一生はただ一回、悔いのない人生を送れ」
「愛がすべて」
「男は愛する女のためなら、すべてを捨てる」
そして、
「人間いつ死んでもおなじ。
同じ死ぬなら、美しく死のう」

あるおばちゃんが映画を観て、こう叫んだのだそうです、
「あれっ、ジョン・ウェインが出てる。
この人、この前の映画で死んだのに!」
私はそこまで無邪気ではありませんでしたが、
やっぱり映画スターたちと主人公を同一視する気持ちは
いつまでも無くなりません。
つまり、現実と夢とを同じレベルでリアルに受け取る、
その癖は心身に染み着いてしまったようです。

だから、実人生でも、
「シェーン」や「カサブランカ」のヒーローたちと同じように、
かっこよく生きたいという気持ちを拭いきれないまま、
人生を送ってしまいました。

結局、それが高じて、写真でも、
「現金ゲンナマに手を出すな」で、
ジャン・ギャバンが一人ホテルのベッドに腰掛けて、
ナイフでチーズを丁寧に削いで、クラッカーに載せて口に運ぶシーン、
あのままに、一人誰も気づかない片隅で写真をひっそりと楽しむ、
そんな写真人生になってしまいました。

間違って、脚光を浴びるようなことがあると、
「そんなつもりはないんだけどなあ」と、
ちょっと居心地の悪い思いをしてしまう。
だけど、自分の写真には絶対的な重みを感じている。
なぜって、そこには私の人生の貴重な一瞬が写っているのだから。
「へっ?
このぼろ壁が?」
私はただ静かに答えるだけです、
「そう、このぼろ壁が」




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by hologon158 | 2015-04-15 01:41 | ホロゴントラベル | Comments(0)