わが友ホロゴン・わが夢タンバール

602.03 ホロゴントラベル24「2016年3月5日三重にキノプラズマート変化」3 杉原広一さん


三重での発見と回心の二つ目を話題にしましょう。
フラウト・トラベルソのオリジナルコピーの製作者杉原広一さん、
彼が正真正銘の名人であること。
これがそうです。

彼がそのコピーを製作したラフィは、
驚くほどに美しく柔和な音楽を紡ぎだしてくれました。
演奏した友人の技量ももちろん加味されているのですが、
杉原さんの製作したオリジナルコピーが
そもそもとんでもないほどに優れているからなのです。

なぜなら、このコピーは、
他のさまざまな製作者のコピーと画然と区別する違いがあるからです。
これが企業秘密ですから、ここに書きませんが、
私の友人の説明では、
この違いを生み出す作業は、
他のメーカーが真似のできない工夫と手間を要するために、
誰も真似ができないのだけど、
この工夫こそ、オリジナルの生み出す音楽にきわめて近い、
独特の音質を生み出す秘密であるとのこと。

彼は、その言葉をリコーダーで証明してくれました。
友人は杉原さんが作成したアルトリコーダー、
偉大なリコーダー製作者であったステンブビーJR.、
この人の名器のコピーを取りだして弾いてくれました。
まず、その姿形、手にしたときの感触に驚かされました。
私がこれまで見たどのリコーダーよりも美しく、気品があり、
ずしりと持ち重りがあるのですが、とても安定感があります。
ローズウッドで作られているのですが、
そもそも作り自体が他と一線を画するようです。
そして、その音楽を聴いて、正真正銘ぶったまげました。
リコーダーのサウンドがこちらに向かって飛び出してくるのです。
あたたかく、輝いていて、芯があり、深みがあります。

この友人との出会いに触発されて、長年忘れていたリコーダーを始め、
杉原さんが今では使わないリコーダーを入門用としてわけていただき、
さらには先頃、アルトリコーダーの製作を注文していただきました。
ステンズビーJR.と並ぶリコーダー製作者デンナーのアルトです。
彼曰く、
「杉原さんのリコーダーが届けば、みんな不要になってしまいますよ」

彼がわけてくれたアルトリコーダーはドルメッチ製。
音がかすれて、とえも吹きにくく、
最低音など、にわかには鳴らせないという難物。
先日、日本の有名メーカーのリコーダーを10本ばかり
試奏させていただいたことは書きました。
輝かしく、弾きやすいリコーダーたちでした。
私のような素人でも、
きらびやかなサウンドに幸福感を味わえる楽器たちでした。
ところが、帰宅すると、我が家で待っていたのは驚きでした。
あの弾きにくいドルメッチから流れ出るサウンドはもっと地味ですが、
もっと高級感あふれる渋みをたたえていることに気づいたのです。

その後、毎日練習を重ねてきたのですが、
日々、音が変わっていくように感じるのです。
どうも日本のメーカーの10万円台以下のリコーダーたちは
素人でもすぐにそれなりの音で弾けるように工夫されているようです。
ところが、ドルメッチは苦労を重ねて特有の鳴らし方を次第に会得するのが
本来の楽器演奏の練習法なのでしょう。

いつか自分の心と楽器とが寄り添ったとき、
かなり一人前のサウンドになっている、
それが理想。

ところが、友人の杉原リコーダーを聴いてしまうと、分かりました。
そんな風に日に日に変わって行くドルメッチサウンドが、
実のところ、杉原リコーダーの足下にも及ばないかも知れない!
上には上があるということですね。

そんな杉原さんがなぜ有名にならないのか?
それは、もしかすると、彼の名人芸と関連しているかも知れません。
口コミでしか注文をお受けになっていないようです。
ある人は25年間待っているのだそうです!!!

ああ、私のリコーダーもそれくらい待つとしたら?
その頃、生きているだろうか?
私の葬式の席上、宅急便が到着します。
「東京の杉原さんのお宅からの至急便です!」
遺族が開いてみると、中から出てきたのは、デンナー。
書簡を開いてみて、びっくり。
「これ、デンナーっていう昔の縦笛なんだそうだよ」
その瞬間です、私の棺桶の蓋がガバッと開いて、
私の顔が出現しました。
「デンナーだって?
どれ、見せてご覧!
吹いてみるから」
ジャン・バティスト・レイエの一曲が忍びやかに会場に響き渡りました。

私もその頃にはかなり練習を積んでいるはず。
一曲弾き終わりました、
「よしよし、いいよ、
こんなリコーダーが欲しかったのじゃ....
後でお代をちゃんと払っておきなさいよ!
それからね、わたしからもよろしくって..................」




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by hologon158 | 2015-06-15 22:24 | ホロゴントラベル | Comments(10)
Commented by cuniacius2 at 2017-05-17 16:59
はじめまして。元ホロゴン16mmユーザー、そして、30年以上杉原さんのフラウト・トラヴェルソを使い続けている都と申します。ホロゴン15mmですね!

杉原さんでサーチしていてホロゴンが飛び込んできて驚きました。素敵な写真です!
杉原さんのリコーダーとは、たのしみですね!お葬式は大げさでしょうけれども、私も最初のステインズビーが6年、次に頼んだロットはなんと25年待ち、そのあとにお願いしたオトテールは1年でできました。今はまたキルストを待っているところです。25年以上待ったトマ・ロットのフルートはキングウッドなのですが、ホロゴン158さんが書いておられるリコーダーのような楽器です。
Commented by hologon158 at 2017-05-23 10:57
都さん
失礼しました。
私のブログは、ご覧のように、コメントがないブログなので、
普段からコメント欄をチェックしたことがなく、
気づきませんでした。
ホロゴン、杉原さん、そして、宮崎貞安さん、
共通点が一杯!
杉原さんと宮崎さん、現代の隠れた超名人ですね。

ブログを拝見。
私の大好きなレンズたちで、
私には撮れない写真を軽やかに撮っておられる。
そして、素敵なゾンネタール50㎜F1.1の作品を拝見。
それにしても、レンズに楽器に、
沢山の名器を楽しんでおられるのですねえ。

私は楽器はデンナー一本だけ杉原さんに作って頂き、
「死ぬまでこれ一本!」そう決めました。
初めての夏を迎えようとしていますが、グングン音が良くなって、
そっと息を吹き込むだけで、朗々と鳴る、
そんな感じに近くなっています。
ホロゴンそっくり!

関西に居られたらなあ、友達になれたのに!
それなのに、北海道?
でも、ブログがあります。
これからも、よろしくお願いします。
Commented by at 2017-10-23 16:28 x
hologon158さん、コメントにお返事を頂戴していたのですね。ありがとうございました。

ここ数年、古いフルートやトラヴェルソの収集に忙しく、愛用のレンズ群も数を減らしてしまい、もっぱら音楽ばかりしています。デンナーはリコーダーでしょうか。ピッチにも様々な違いがあって、集め出すときりがありません。

機会がありましたら、いつかぜひお目にかかれるのを楽しみにしています。
Commented by hologon158 at 2017-10-29 21:46
都さん
古いフルートやトラヴェルソの収集に忙しい、とは、優雅な人生ですね!
残念ながら、私はフルートが吹けません。
デンナーはリコーダーです。
おそらく世界で唯一の本物のコピーだそうです。
ただし、まだ本来の音が出ていません。
オリジナルリコーダーだけが出せるエネルギー溢れるサウンドを夢見て、
がんばっています。
でも、私の本命の楽しみは合奏。
こちらは440のヤマハバイオマスアルトと、フォン・ヒューネのルネサンスソプラノ。
相棒の音楽家の吹くアルトと、ルネサンス、バロックの重奏曲を楽しんでいます。
天国ですね。
こちらこと、機会がありましたら、お会いして、語り合いたいですね。
Commented by cuniacius2 at 2018-01-23 12:45
すっかり出遅れました。
ぜひお目にかかりたいですね。
杉原さんの楽器は、機能を追求するあまり音の美しさが犠牲になっていないのがよいですね。演奏がむずかしくてもそのよい音に触れるのが気持ちよいです。
また見ても触っても喜びがあります。トマ・ロットは、400、オトテールは392と低いピッチの魅力に、レンズ沼のようにはまってます。
Commented by hologon158 at 2018-01-25 11:42
cuniacius2さん
お元気で何よりです。
ブログを拝見して分かります。
美しいものを見ることで、エネルギーを得ておられるのでしょう。
杉原さんの楽器、私が持っているのはデンナー・リコーダー一本きり。
私が未熟なせいでしょう、なかなか孵らないドラゴンの卵、という感じ。
一進一退を繰り返しています。
なんとヤマハバイオマスアルトの方がよく歌うという事態が続いています。
もちろん音の凝縮感、豊かさは遙かに劣りますが、楽器のことを忘れ、
音楽の方に注意を集中できるのですから、困ったものです。
杉原さんにはデンナーの440の換え管、ソプラノのテルトンをお願いして、
2年待っているのですが、どうやら、その気になることはなさそうと、
99%諦めています。
cuniacius2さんや、やはり2、30本杉原さんに作ってもらった私の友人は、
よほど辛抱強い上に、杉原さんが作りたい楽器を注文なさってきたのでしょうね。
私もレンズ沼にはまりこんだままですが、こちらはまさに温泉気分で、
いつまでも首までしっかり沈めて、温まり続けることになりそうです。
Commented by cuniacius2 at 2018-11-13 13:04
1年に何回かのコミュニケーションでまったくすみません。

実は、30年以上まえにやめていたリコーダーを再開することになり、新たに楽器を探しています。杉原さんにお願いすることも検討したいと思い、hologon158さんのブログを訊ねてみようと思った次第です。杉原さんにも尋ねようと思います。

ただ、まだクヴァンツを待っているところです。
Commented by hologon158 at 2018-11-19 21:13
cuniacius2さん
リコーダー再開とのこと、ご同慶の至りです。
私のデンナー、近頃、かなり鳴り始めています。
揚琴、二胡は優れた師匠について習っていますが、
リコーダーは独学。
かなり引け目を感じています。
面白いことは、一つの楽器がレベルアップすると、
他の2つも連動して良くなる感じがありますね。
今、その意味で、一種のルネサンス気分です。
デンナーの換え管もテルトンもまだ待っています。
でも、デンナーがあれば、何も要らないという気分です。
杉原さんからお望みのリコーダーが手に入ればいいですね。
Commented by cuniacius2 at 2018-12-04 13:02
ありがとうございます。
私のクヴァンツと、ステインズビーの頭部管は、まだまだかかりそうです。
リコーダーは結局、楽器づくりの古い友人から借りたものや、T山製の中古などでしのいでいます。フルート以上に楽器がクウォリティを規定してしまうので、なかなかむずかしいところです。
Commented by hologon158 at 2018-12-07 21:56
> cuniacius2さん
ご苦労様です。私は初心者同然なので、デンナー一本でも持て余し気味。
ひたすら吹いて吹いて吹きまくって、という状態です。
でも、楽しいですねえ。
近頃、低音がとても豊かな音色で出るようになりました。
徐々に、徐々に、デンナーと親密なパートナーとなっていけるような気分になっています。
楽器って、本当によいものですねえ。