606.04 ホロゴントラベル27「2016年3月7日キノプラズマートは三重最終日」4 悪筆のツール
YouTubeには時折目も覚めるような美しいビデオが見つかります。
私は、パソコンが人類に与えてくれた諸機能のうちで、
次の3つには深く感謝しています。
①ワープロ
②iPodのようなリスニングツール
③YouTube
現代世界はますます非人間化に向かってばく進していくようで、
人間が次第にコンピュータの奴隷に化していきそうな傾向を見るにつけ、
不信、不快、不安を感じるばかり。
それなのに、上記の3つはフルに使わせてもっています。
矛盾そのものですね。
YouTubeはアート情報のツールとして楽しいですね。
そのYouTubeで目覚ましく冴えた技を見ることができました。
Custom Namiki Falcon, Part 2
(https://www.youtube.com/watch?v=XMolEvB5EqA&list=
PL1kIeRJejsQato5ZS2v_qDUimNjPikebb&index=4)
John Mottishaw
ジョン・モッティショウと呼べばよいのでしょうか?
パイロットのNamiki Falcon, resinというペン先に工夫を施して、
フレキシブルに仕立てたカスタムペンを縦横に走らせて、
さまざまな字体で英単語を上質のペーパーに書き続けます。
見事にコントロールされた手さばき。
プロが撮ったものですから、とてもダイナミックな画像を楽しめます。
試しにご覧なってください。
ウォーターマン52のような黄金時代のフレックスではありません。
かなり硬いペン先です。
アート紙の若干凹凸のある表面をものともせず、ペン先を走らせます。
ウォーターマン52のような本物のフレックスのペン先は、
ペーパーに吸いつくようにしっとりと走り、
その音は得も言われないほどにやさしいサウンドです。
それとは似ても似つかない、
ガシガシというきしみ音に近い筆記音なのですが、
これがかなり壮快、豪快に聞こえるのですから、おかしなものです。
彼の手さばきを音にしたような感じなのです。
彼のビデオでファルコンに魅せられた人の多くは、
そんな風に書くことなどできないことを知って愕然としているでしょう。
書道の大家の筆裁きを見て、その筆を買い、
写真家の写真を見て、そのレンズを買い、
名コックの包丁、ナイフをそっくり買い、
名ゴルファーの使用するドライバーを買う、
みんな同じ誤謬。
ジョン・モッティショウさんの手さばきはもちろん才能のある人が、
長年苦労して身につけた境地。
そのうえ、ペン先は彼自身の手によってカスタマイズされています。
それでも、彼の手さばきと字を見ていると、
私たち素人が身につけるべき基本の一部が見えてくる感じがします。
アルファベットは直線、斜線、弧、屈曲で構成されています。
ジョン・モッティショウさんのペン先は、
これらの構成要素を着実に、素速く、確実にかつ強靱に、
紙面に刻みつけていきます。
一度書きましたが、書店で、「直線が書けるようになると、字がうまくなる」
というような表題の本を見ました。
アメリカ人のリコーダー演奏家がブリュッヘンに弟子入りして
1年間ラの音だけ吹かされて開眼した話も読みました。
こんなことを考え合わせると、
私のように字の下手な人間のすべきことはただ一つ。
直線、斜線、円、弧をひたすら書き続けること、
これではないでしょうか?
笑わないで欲しいのですが、
「ペン習字」の本を一冊買ってしまいました。
お手本と私とではまったく違う!
そのお手本をなぞっていて、ふっと気づきました。
「待てよ!
こんなことをしていたら、ぼくじゃなくなってしまうぞ!」
達筆の人にも2種類あります。
その人らしい個性に満ちた達筆と、
まるで習字のお手本のように整った達筆と。
ひがみかも知れませんが、
私が出会ったこの種の達筆家はそろって没個性でした。
私は何度も言いますが、達筆どころではなく、悪筆そのもの。
でも、お気に入りの萬年筆で滑らかに書けるようになればよいのです。
なんだかここでも写真と同じ事態。
私の写真は誰も見ないし、誰もなにも感じないのだから、
ひたすら私の好きなように撮るだけ。
同じように、私の字も誰にも見せないのだから、
私が書きたいように書けばいい!
なんだか糸の切れた凧の風情ですが、
そう考えると、とても気楽になりました。
by hologon158
| 2015-07-12 16:38
| ホロゴントラベル
|
Comments(0)