640.06 ホロゴントラベル30「2016年4月1日スピードパンクロ35㎜F2も角館に」6 下手くそめ
アイリアノスの「ギリシア奇談集」でとても啓発的なお話を見つけました。
体育教師のヒッポマコスの話。
弟子のレスラーが技をかけて、観衆からやんやの喝采を博したのを見て、
杖で弟子を殴りながら、
「この下手くそめ、
もっとうまくやらねばならぬところを、おまえはやりそこなったのだ。
おまえの技がうまく決まったのなら、
この連中がほめるはずがないのだから」
なんだか写真にも通じる感じ。
よく素人受けがするとか玄人受けがよい、と言われます。
どうもそのようなレベルでの問題ではなさそうです。
私はどんなレベルの写真家にも無縁な写真を撮っている人間なので、
とりあえず、私のことは忘れてください。
ヒッポマコスが弟子に教えたかったことは、
玄人でさえも戸惑う、
今のはなんだったんだ?
なにがなんだか分からない。
でも、相手ははいつくばって、意識のなく伸びている。
そんな技。
あるいは、なんでもない顔でやっていて、
とてもやさしそうな動きなんだけど、
相手は落雷にでも逢ったからようにふっとんでしまった。
そんな技。
前にYouTubeで剣道日本一を決める試合を見たことを思い出しました。
両者が同時に動いて同時に「面!」
そう見えました。
でも、三人の審判は瞬時に赤(だったと思います)の旗を揚げました。
写真判定が実施され、たしか0.01秒の差で赤が速かったのです。
日本一を競いあうライバルなのですから、
実力の差はほとんどなかったのでしょう。
そして、まったくの素人の私に分かることでもないのでしょう。
でも、私の仕事上での経験からすると
こんな感じじゃないかな、と推測してみますと、
白は、今から面を打とうと決意して実行しました。
でも、これもまったく分からないことですが、
攻撃に出るときは、どこかで防備の隙ができる。
赤はそれを待っていて、
白が攻撃を決意して実行に移すその一瞬の隙に
乗じるだけの瞬発力があった。
そういうことだったのではないでしょうか?
もちろん、同時に決断して同時に実行したけど、
赤の剣の速度の方が速かった、
ただそれだけではないかという考え方もできそうですが、
そうではない感じがするのです。
私の仕事上での経験でも、
人と協議したり、説得したりする機会に、
まさしくその一言がその瞬間にあったことが成功の理由だった、
そんなことがよくありました。
対話の間に相手の心がなぜか読める瞬間があり、
その瞬間に心を開かせる一言が閃く、
というようなことなのかもしれません。
そのきっかけは一瞬の表情の変化であったり、身じろぎであったり。
前にも一度書きましたが、はるか昔のことです。
私の母の親友のご主人、今から中国旅行に行こうして、
朝の満員の通勤電車に同行者たちと乗車しました。
友人たちに豪語しました。
「腹巻きには買い出し資金の50万円が入ってるけど、
気をつけてるから、誰にもスレないよ」
終点について電車から降りたとき、
着物のお腹部分がざっくりと切り裂かれていることに気づきました。
もちろん50万円は財布ごと消えていました。
剣道の達人と一緒です。
警戒心が一瞬消える瞬間があります。
そのわずかなタイムスリットを見逃さなかったのです。
もちろんスリの場合には、
仲間(「幕」と呼ばれます)がやった動きが
そのスリットを作りだしたのですが、
その一瞬を見逃さず、瞬時に仕掛けて成功したのですから、
これも大衆が気づく暇もなく、
褒めるにふさわしい行為を視認することもできない早業。
by hologon158
| 2016-04-16 23:46
| ホロゴントラベル
|
Comments(0)